「それじゃぁ三蔵、をお願いしますね。」

「苛めんなよな。」

「煩ぇ・・・」

ったく、何でこんな事になったんだ。



いつものようにあいつ等を呼び出して、用事を押し付けようとしたら・・・あろう事かを抱えて来やがった。

「すみません、こちらへ向かう途中が来ちゃいまして・・・戻ると約束の時間に遅れそうだったので連れて来てしまいました。」

「・・・あのなぁ」

ここが何処だか分かってるのか?

「おい!このソファー借りるゼ。」

あの野郎ソファーに積んであった書物をあろう事か足で蹴りやがった。
まぁ寺の物で俺の物じゃないから構わんが・・・それより問題なのは俺の部屋にがいる事だ。
一応ここは寺で女人禁制、ただでさえ悟空というお荷物を抱えているせいで爺達の小言が煩いのに面倒ごとを増やしやがって・・・。



ふと気付くと何時の間にかが目を覚まし俺の方をボーッと見ていた。
コイツ・・・寝起き悪いな。

「・・・起きたか。」

「・・・うん・・・?」

取り敢えず俺は気付かれないよう小さな溜息をついてから、至極簡単に現在の状況を説明してやった。

「あいつ等が戻るまで此処から出るんじゃねぇ。」

「・・・は?」

口を開けたまま俺を見ているを見て、どっと疲れが増した。
今回の任務はもしかして俺が行った方が楽だったんじゃないかと思ってしまうほど。
しかし俺の思惑とは別には俺の言った事をキチンと理解して此方へ確認の視線を向けていた。

「ほぉ・・・大分言語理解力ついたじゃねぇか。」

馬鹿じゃねぇな、コイツ。
俺は咥えていたタバコを指に持ち替えてニヤリと笑った。
するとの顔が見る間に真っ赤になり、慌てて視線を反らすと明らかに話題の転換を試みたので俺も乗ってやった。

「えっと、外には出てもいいの?」

「この部屋の窓の外ならな。一応此処は寺で女人禁制らしいからな。」

とは言え俺に文句を言えるようなヤツは此処にはいないがな。
しかし目の前のコイツは俺の手元にある煙草と、机の上にある灰皿を交互に眺めると眉間に皺を寄せかすかに首を傾げ始めた。



・・・ほぉ、いい度胸してるじゃねぇか。



「・・・何か文句あるのか?」

「ないっ!何にも無いです!外行ってきま〜す♪」

俺がひと睨みした瞬間、姿勢を正してそのまま部屋の窓を乗り越え外へと飛び出して行った。

ようやく静かになったな。

俺は窓の側にある椅子に腰を下ろすと、変わりばえの無い書類に軽く目を通し次々に捺印し机の横へ積み上げて行った。





ふと外にいるの様子が気になり、書類に判を押す手を休め窓の外を見た。
すると彼女は微動だにせず、真っ直ぐ空を眺めていた。

・・・何かあるのか?

つられる様に俺も空を見上げるが、ただ雲が風に乗って流れているだけで変わったものは何も無い。
それでもアイツはじっと空を眺め、時折何か呟いては口を開けたまま再び空を眺めていた。

「・・・馬鹿か。」

そう呟くと俺は自然と口元をほころばせた。

「あー三蔵、見てる!」

馬鹿でかい声で俺の目の前に立っていたのは・・・

「・・・悟空。」

「なぁ何で見てんの三蔵?面白いもんでもあるの?」

「・・・知らん。」

「なぁ何で三蔵顔赤いの?」

「煩い、黙れ!」

「なぁ何で?」

「黙れって言ってんだろうがこっの馬鹿ザル!!」

机の下に置いてあったハリセンを取り出すと容赦なく悟空の頭に振り下ろす。

「うわっ!何怒ってんだよ三蔵!!」

「・・・泥だらけで部屋に入るなと何度言ったら分かる。」

「だってこの間風呂勝手に入ったら怒ったじゃん!」

二度目のハリセンを振り下ろそうとしたら悟空が逃げた。
思わず手にしていたハリセンを放り投げると部屋の隅に置いてあった棚に当たり、大きな音を立てて倒れた。

「あ〜あ・・・」

「・・・覚悟はいいな?」

部屋の惨状を見て、俺は無言で机の引き出しから昇霊銃を取り出すと安全装置をはずした。

「えっ嘘!三蔵マジ!?」

「部屋で暴れんなって言っただろうがっ!」

「きょ、今日は三蔵の所為だろ!」

「喧しい!!」

照準を合わせようとするが、悟空のヤツも必死のようで部屋の中を素早く動き回る。
やがて窓際に立つとそのまま外に向かって飛び出した。
俺は咄嗟に外にいるに声を掛けた。

!その馬鹿を捕まえろ!!」

「えっ!?」

「わ―――――っ!どいてー!!!」

「えぇ――っっ」

悟空が飛び出した窓に慌てて駆け寄って俺が見た光景は、の上に落ちた悟空だった。
俺の中で何かが弾け、無言で机の上に手を伸ばすと手近にあった物を掴んで悟空に向けて放り投げた。

「待ちやがれ、こっの馬鹿ザル!!」

それは残念ながら悟空には当たらず、外の塀をよじ登って逃げる悟空の手前に落ちた。

「いくら悟空でもあんなの当たったら死んじゃうよ?三蔵。」

「馬鹿はそう簡単に死なん。」

だが、あれが当たれば死ぬかもしれんな・・・さすがに文鎮じゃ問題あったか。
そんな事大して気にも留めず、俺は悟空同様窓に足を掛けるとそのまま飛び降りの隣に腰を下ろした。

「何かあったの?」

心配そうな顔で俺の方を見る、コイツにこんな顔は似合わねぇ。

「・・・いつもの事だ。それより怪我はねぇか?」

「え・・・あ、うん。大丈夫。」

顔には出さずホッと胸を撫で下ろし、ついでに一言付け加えておく。

「お前に何かあるとあいつ等が煩いからな。」

そう言うとは少し照れた様に笑って再び視線を空へ戻した。
あいつ等の名前を聞くだけ笑うんだな、お前は。



こうして誰かの隣で時間を潰すのは久し振りだ。
やけに落ち着いた時間を過ごすのも・・・。

だが隣のは落ち着かないのか、やたら小刻みに動き始めた。
穏やかな気分でいるのは俺だけか・・・って、何故俺はこんなにも落胆しているんだ?
それでも何か話した方が言いのだろうと思い、思い切って話しかけてみた。

「何を考えている。」

「え?」

「さっきからボーッとアホ面さげて空見てたじゃねぇか。」

「あ、うん・・・って三蔵見てたの!?」

「あ?」

「だから・・・その・・・見てたの?」

「・・・あぁ。」

そう呟いてチラリと横を見ると・・・何だコイツ?どうしてそんなに赤くなる必要がある?
赤くなった頬を隠すように両手で押さえ、俯いてしまったを見て何故か胸に温かいものが溢れてきた。

・・・面白いヤツだ。

そう思った瞬間急に肩の力が抜けて、俺はとは逆に両手を後ろについてさっき彼女がしていたように真っ直ぐ空を見つめた。

「いい天気・・・だな。」

「うん、いい天気・・・だね。」

独り言のつもりだった言葉にが同意してくれた。
そんな小さな事がヤケに嬉しくて、暫くそのまま二人で空を見上げていた。





「三蔵様?三蔵様、いらっしゃいませんか?」

・・・また仕事か?

聞きなれた坊主の声が聞こえ、無視を決め込んだ俺の隣ではが急にオロオロし始めた。
それだけならまだしも、が何か口を開きそうになったので慌ててその口を手で塞いだ。
坊主が部屋の中に入ってくる事も考えて、俺はそのままの体を窓の下まで引き摺っていくと壁に背中を押し付けの耳元へ言い聞かせるように呟いた。

(静かにしてろ・・・いいな?)

が小さく頷いたのを確認すると、俺も同様に壁を背にして死角に隠れた。
やがて頭上から坊主の声と同時に大げさとも思えるため息が聞こえ、暫く部屋の中をうろうろしたあとようやく部屋の扉が閉まり人の声が聞こえなくなった。

「はぁー・・・緊張した。」

体中の緊張をほぐすように息を吐き出したを見て、つい口元が先程と同じように緩んでしまい慌てて引き締める。

「こんなモンで緊張してどうする。」

「・・・するもん。」

そう言って頬を膨らませてソッポを向くは・・・とても俺より年上には見えず、どちらかと言うとガキのように思えた。
俺が一番嫌いな手のかかるタイプ・・・のはずなんだが、なぜか気になってしょうがねぇ。

「でもいいの?あの人一生懸命三蔵の事、捜してたよ?」

「かまわん、どうせいつもと同じだ。」

また他人の話か・・・コイツの話には一貫性がねぇのか?

「同じって?」

「悟空が何を食ったとか、何を壊したとか、書類の捺印漏れだとか、近隣の説法の予定だとか・・・くだらねぇことばかりだ。」

「でもお仕事でしょ?」

「今日の俺の仕事はもう終わった。あとはあいつ等が仏像を持ってくりゃ終わる。」

「・・・そっか。」

これ以上余計な詮索も、他のヤツの話をされるのもごめんだ。
懐の煙草を取り出そうとした手を不意に止めて、隣のを見ると肩の力が抜けたのが何となく分かった。
俺は自分の体を斜めにして、極自然にの肩に頭がもたれるような体勢を作ってゆっくりとの方へと体を倒して行った。

「さっさんぞぉ!?」

予想通り俺の頭がの肩に乗ると同時に、その体がビクンと勢い良く固まった。

案外分かりやすいヤツだな、コイツ。

「煩い、暫くじっとしてろ。」

「で、でもっ」

「昨夜から仕事が立て込んでてあんまり寝てねぇンだ・・・5分でいい、大人しくしてろ。」

こう言えばコイツは動かない。
そんな確信を持って俺はゆっくり目を閉じた。





昨日翌日の任務を確認している時、悟浄達に任務を押し付けていた事を思い出した。
だから今日の仕事を昨夜の内に出来る限り済ませておいた。
ただ休みたかっただけかもしれない、だがもしかしたら・・・何かがあるかもしれないとも思った。
そして実際その何かは起こった。

コイツが・・・がやってきた。

さっき俺を探しにやってきた坊主が持ってきた仕事量は結構あるはず、明日は一日机上業務・・・だな。
それも構わん。
このひと時を過ごせるならそれ位安いもんだ・・・。



本当に眠るつもりは更々無かったが、予想以上に疲れていた事とが髪を撫でる仕草がやけに気持ちよくて・・・気付いたら俺は意識を飛ばしていた。





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三蔵の話が少ないので、眠っていた話を掘り起こしました(笑)
でも手直しはしてませんっ!(しかも元お題話だし(苦笑))
こちらがTop of the BLUE三蔵バージョンになります。
三蔵がヒロインに懐いてるって辺りがかなり驚きですね。
だってヒロインの肩枕で休んでますよっっ!?
三蔵の寝顔って辛そうなのとか今にも眠りそうってのしか見た事ないんですが、こんな風に外でのんびりしてる時の三蔵の寝顔ってちょっと可愛いんじゃないだろうか、と勝手に思ってます。